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最高裁判所第三小法廷 平成3年(オ)828号 判決 1991年9月17日

東京都品川区荏原四丁目二番六号

上告人

松尾ハンダ株式会社

右代表者代表取締役

松尾仁介

右訴訟代理人弁護士

國生肇

右輔佐人弁理士

服部敏夫

東京都墨田区横川二丁目二〇番一一号

被上告人

タルチン株式会社

右代表者代表取締役

大貫智司

右当事者間の東京高等裁判所平成二年(ネ)第三四二二号実用新案権侵害差止等請求事件について、同裁判所が平成三年二月二七日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告の申立てがあった。よって、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人國生肇、上告輔佐人服部敏夫の上告理由について

所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するものにすぎず、採用することができない。

よって、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 佐藤庄市郎 裁判官 坂上壽夫 裁判官 貞家克己 裁判官 園部逸夫 裁判官 可部恒雄)

(平成三年(オ)第八二八号 上告人 松尾ハンダ株式会社)

上告代理人国生肇、上告補佐人服部敏夫の上告理由

第一 序論

本件上告事件は登録第一七七八〇四八号実用新案「長尺半田材供給装置」(以下本件考案という)の実用新案権侵害差止等請求事件についての東京地方裁判所の判決を支持した東京高等裁判所の判決の破棄を求めるものである。

一、 上告までの経過

昭和五七年七月二八日……実用新案登録出願

(実願昭六〇-八二五九八号)

昭和六二年一一月一三日……出願公告

(実公昭六二-四三六六六号)

平成元年七月一〇日……登録

平成元年九月二五日……タルチン株式会社に対して実用新案権侵害差止等請求について

東京地方裁判所に出訴

(平成元年(ワ)第一二五九〇号)

平成二年九月一二日……原告の請求棄却判決

平成二年九月二八日……前記東京地方裁判所判決の取消について

東京高等裁判所に控訴

(平成二年(ネ)第三四二二号)

平成三年二月二七日……原告の控訴棄却判決

平成三年三月一二日……最高裁判所に上告

二、 本件実用新案について東京地方裁判所より東京高等裁判所までの経過

(一) 東京地方裁判所判決の要旨

判決文第四丁表第二行~第九行

『前示本件考案の明細書の実用新案登録請求の範囲の記載によれば、本件考案は、トップローラ及びボトムローラが「半田槽」に取り付けられる構成を必須の構成要件とするものであることが明らかであり、また、このことは、本件考案の詳細な説明の項に、「本考案の装置の特徴とする手段は、・・・半田槽に一組のトップローラとボトムローラを設け・・・るようにしたことにある。」(本件公報一頁二欄一九行ないし二頁三欄二行)と記載されていることからも明らかであるといおなければならない.原告の主張は、明細書の記載に基づかないか、又は明細書の記載を無視するものであって、採用することができない。』

(以下、省略)

として原告の請求を棄却した。

(二) 原告の東京高等裁判所への控訴要旨

ここにおいて原告は、前記東京地方裁判所の判決において、本件考案の「必須の構成要件」の認定において、明細書の「特徴」のところの文言を「必須の構成要件」と引用したことは学説・判例もなく、さらに特許庁の審査、審判基準にも存在していない全く根拠のないこととして、その判決には論理の飛躍があるとして、「特徴」のところの文言が何故「必須の構成要件」となるかの理由を求めるために東京高等裁判所に控訴した.

控訴人の平成三年一月二三日準備書面の要旨

(同書面第三丁表第一行~同裏第一行)

『更に出願人が明細書において「特徴」と記載していることは、当然乍ら出願人の「主観的」なものであり、特許庁で審査の経過において、公知例など新規性進歩性の判断をするとき、出願人がその明細書・図面において当り前のアイデアと考えていたものが、「客観的」には当該発明・考案の「特徴」であることを発見されることが多々あり、そのような場合には当然クレームなどを訂正することが可能であって、出願人(発明者・考案者)を保護する措置が講じられている.即ち、「特徴」とは出願人の主観的なものであり、これを直ちに発明・考案の必須要件とすることは不当である。(甲第一一号証乃至同第一六号証の明細書記載に於ける「特徴」の使い方に注目すれば明白である。)

以上の様な次第であるので、発明の特徴をクレームそのまま記載することでは本来の目的から離れたものであり、従ってそのような出願明細書に対しては原判決は「項門の一針」の価値が或いは有るかも知れないが、之を以って必須の考案構成要件と認定することは、学説・判例もなく、更に特許庁の審査基準にも存在していない全く根拠の無い事柄である。

以上の観点から「問題点を解決する手段」の「特徴」とは、その記載内容全体、つまり発明・考案の技術思想として、一体の表言として解釈すべきであって、クレームの文言にある「特徴」と同様にその文言の一部のみを摘出して、付随的構成要件とすることは認めても、必須要件とすることには論理の飛躍がある。(甲第一六号証参照)』

(以下、省略)

(三) 東京高等裁判所判決の要旨

右原告の東京高等裁判所への控訴に対して、東京高等裁判所はその判決の第八頁第七行から第一〇行において

『1 本件考案の必須の構成要件の認定に当たり、本件考案の明細書の考案の詳細な説明の欄の説明(本件公報一頁2欄一九行から二頁3欄二行まで)を根拠の一つとすることは正当であって、この点に誤りはない。』

として、本件考案の明細書の「特徴」のところの文言(本件公報第一頁2欄一九行から二頁3欄第二行まで)を根拠の一つとすることは「正当であってこの点に誤りはない」とのみ説示しているに過ぎず、その根拠については何等理由は示されていない.

(四) 以上のとおりであるので、東京地方裁判所、東京高等裁判所の判決は明細書の「特徴」のところの文言を引用するのみで、本件実用新案の「必須の構成要件」を認定していることは、実用新案法第五条第三項・第四項の「構成」について単なるつけたりの要件とすべきを必須とした点において、その解釈を誤っているものであり、さらに何等理由なく「特徴」のところの文言を「必須の構成要件」と認定したことは判例・学説もなく明らかに審理不尽・理由不備の違法を犯しているものと認める.

ここにおいて、上告人は前記判決の破棄を求める次第である.

以下、次に上告理由を述べる。

第二 本論

一、 構成要件の本質について

東京地方裁判所、東京高等裁判所の前記判決の不当性は発明・考案の構成要件の本質を単なる文字記号としてとらえて、その本質の意味を考えずに解釈したことにある.そこで、構成要件(要素ともいう)の本質として、その意義役割の面から考究する.そもそも発明・考案の「構成」は課題を解決するための手段であり、「構成」とはその構成要件の有機的の結合関係によって表示される。

その構成要件は発明・考案の成立性、特許登録性、権利範囲(技術的範囲)の属否(抵触)の判断において最も重要な役割を有している。

そして、それらの構成要件は構成に対して、「平等な立場において寄与しているのではなく、公知例の存否、明細書の「効果」の項の記載、意見書、補正書などに於ける禁反言の存否などによって、その特性が決定される。

これまでの学説・判例をもとに要約すると次のとおり「甲第六号証、クレームの解釈の基礎知識(A)・(B)参照)

(1) 特異的(別異的)構成要件

発明・考案の進歩性などの判断において公知例のものと対比して、特異(別異)の効果があるときには特異的構成要件といい、とくに公知例が存在していないときには、その構成要件一つのみにて、発明・考案の同一性を判断している。(甲第五号証、原吉藤の応答のところ参照)

なお、前記進歩性は俗語であって、不適切な用語である。

日本の判例では引用例のものと効果が相違するか否か、すなわち特異(別異)としている用語が使われており、英国では発明的段階(Inventive step)の存否で判断している。

たとえば、物を固着するのに「釘」と「ねじ」がある。釘は「取外し困難の固着」の効果であり、ねじは「取外し容易の固着」の効果である。両者が何れが進歩しているかは適材適所の問題である。

(2) 意識・限定的構成要件

明細書において、その構成要件について(a)効果が明記してあること(技術的重要度は問わない)、(b)意見書・補正書などで特定的限定(禁反言に通じる)、(c)明細書で技術的な特定・限定をしていること、たとえば研究者の数値限定問題あるいは、たとえば「釘」はよいが「ねじ」は不適であると記載していること。

(3) 任意付随的構成要件

本来、たとえば「時計」の発明において、その「ふた」をとめる「ねじ」は発明のポイントからみれば、単なる慣用手段であるのでクレームに不必要であるが、発明が要件(要素)の有機的結合体である以上、どこまでクレームに記載すべきかは実際の明細書を作成した者ならば常に迷う問題である。

クレームを簡潔に書きすぎると発明未完成の問題が生じ、反対に長く書きすぎると、どこで打ち切るかは発明が技術思想という質的なものであるので、きわめて困難な問題である。

そこで、問題とする構成要件に体して「効果」の記載がされていないとか、あるいは公知例からみて設計上の慣用手段であるときには、クレームにたとえ要件として記載されていても、それは重要視しない。

これは前述した甲第五号証において、「ありふれた単なるつけ足しの工程」に相当するものである。

本件考案における半田を送るローラの取付位置が槽の上か、床の上かは設計上の任意選択できる問題であり、それに対する効果の記載はないのであるから、正に任意付随的要件であり、必須要件ではないことは明らかである。

この点において、判決は実用新案法第五条の「構成」についての解釈を誤った違法性がある。

(4) 不特定構成要件

(a)クレームにおいて単に部品、手段をならべたもの、(b)単なる数値限定、(c)クレームにおいて機能(作用)効果の記載事項などがある。

(a)については、たとえば「ねじ(A)と歯車(B)とばね(C)からなる時計」があるとすると、A・B・Cの単なる結合は玩具の自動車、電車にもあるので時計という特定はできない.

(b)については、研究者の発明に多いが、たとえば五%の銅合金とあるとき、論文としては権利に関係しないので問題はないが、発明となると四%、六%は五%に対しての権利関係がどうなるか、ここに効果として五%の臨昇的意義を明確にしなければならない.しかし、実際には審査官のミスにより多く特許されている。

(c)については、特許されたもののクレームに非常に多い。

たとえば、「A・B・Cからなる時間を正確に表示する時計」とあるクレームにおいて、自分の発明は「時間を正確に表示する」という「作用効果」のところを発明のポイントの構成要件として主張するのである.

特許法第三六条第四項(実用新案法第五条第四項)においてクレームには「発明の構成が欠くことができない事項のみ」記載することになっているが、前記「事項のみ」とは「作用効果」を記載してはならないという説の方が正しい。

何故ならば、前述したとおり「発明の構成」をどこまで記載するかは発明が技術思想である限り不可能であるからである。

(5) 必須の構成要件

これは構成要件のうちで、効果の項において記載している要件については、たとえそれが発明全体として重要でないポイントであるとしても必須の要件と認めるのである。

明細書の効果に注目して、その必須性を判断している判例は多々あるが、甲第七号証はその一つである。

なお、出願人は明細書の効果を数多く羅列すると審査官も権利として狭いという安心感から特許してくれるということで、活用しているのを多く見受けられる。

ところで、判決は明細書の「特徴」という文言のところをとらえて何等理由なく必須の構成要件とした点に重大な違法性がある。

本件考案の判決で指摘している「ロールの槽上の取付位置」は単なる設計上の慣用手段であり、しかも明細書の「効果」のところでも何等ふれていないので、構成としては任意付随的のものであり、必須のものではない。

判決はこの「構成」についての解釈についても重大な違法性がある。

二、 明細書の効果の役割について

今回の東京地方裁判所、東京高等裁判所の判決の問題点は、公知例との対否、効果の検討もしていないので、ここに改めて過去の判例・学説についてその重要性を強調する。

明細書の「効果」は特許法という法律効果と同時に技術的効果としての意義を有している。

したがって、判例においても先の甲第七号証における構成要件の必要性の判断において、その作用効果(裁判所では作用を含めているが、単に効果というのが特許法第三六条第三項の明細書記載要目に徴して妥当である)に注目して判断している。

この他、たとえば進歩性の判断については、

(A) 進歩性是認

(1) 東京高等裁判所昭和三〇年(行ナ)第三号

本願の発明は特異の効果を奏する。

(2) 東京高等裁判所昭和三九年(行ケ)第一四号

構造上及び作用効果に差異がある以上、容易に想到しうるものではない。

(3) 東京高等裁判所昭和四〇年(行ケ)第一三号

引用例に本願の具体的な作用効果が示されていない以上、引用例から容易になしうるものではない。

(4) 東京高等裁判所昭和五六年(行ケ)第二八七号

引用例から予測しえない格別の作用効果を有する。

(B) 進歩性否定

(1) 東京高等裁判所昭和三六年(行ナ)第一二五号

構造上の差異に作用効果に格別の差異がない。

(2) 東京高等裁判所昭和五八年(行ケ)第二六九号

構成上の作用効果に特別顕著性を認められない。

(C) 均等論

実質的には進歩性の判断と同じであり、その判例の事例には前記(A)・(B)のとおりである。

なお、特許庁の「審査基準の手引き」によれば、『発明の同一性を判断するに当って、単なる「均等手段の転換」として「効果に格別の差異が生じない場合、それに対し構成を変更した発明は同一とする。』といっている。(参考資料一)

以上のとおり、発明・考案の特許登録性、権利範囲(技術的範囲)の属否などの判断で、主役となるものは、これまでの学説・判例の何れにおいても、構成要件と効果に基づいており、今回の東京地方裁判所、東京高等裁判所の「特徴」をとらえたのは始めての判例となるものであるから、何故「特徴」の部分の文言が必須の構成要件となるかについては、その判断に理由がなければならない。

三、 明細書の「特徴」について

明細書の「特徴」については、本上告人が東京高等裁判所に控訴したときの平成三年一月二三日付準備書面において詳述している。

それを要約すると次のとおりである.

「特徴」という表現を理解するには、明細書記載様式を規定した大正一〇年法にさかのぼって検討すると一層明瞭となる.

そもそも大正一〇年法の特許法・実用新案法の明細書記載を規定した特許法施行規則第三八条(実用新案法施行規則第二条・甲第一三号証)において、明細書の作成においては特許出願の場合には「発明の性質及目的の要領」の項を設けて、発明の性質として特徴とさらにその効果、特に直接効果を記載することを義務づけており、実用新案においては「実用新案の性質、作用及び効果の要領」の項において、「実用新案の性質」については同じく実用新案の「特徴」を記載することを義務づけたのである。この趣旨は発明・考案の技術内容を分かり易く表現して、審査官には勿論のこと、一般公衆にもその発明・考案の特徴を知らせることにあった。

しかしながら、実施してみたところ甲第一六号証に示すように大部分の出願に於いては、そこにクレームそのままを特徴として記載しているので、昭和二七年に、この規程は意味をなさないものとして削除し廃止した。

しかし、最近の発明・考案の技術の高度化・専門化・複雑化、更に出願の激増に伴う担当すべき審査官の指定が困難となり、改めて発明考案の内容を分かり易く把握できるように、昭和五九年三月通産省令第二一号により明細書の記載の施行規則の規定を設けたのである.

その記載様式は、本件考案の公報(実公昭六二-四三六六号公報)及び甲第一四号証の二に記載されているように「発明・考案の目的」として産業上の利用分野・従来技術・考案が解決しようとする問題点を、そして「発明・考案の構成」として、問題点を解決する手段・作用及び実施例をそれぞれ見出しをつけて記載する様にしたのである.

ところが、実施してみたところ、大正一〇年法の出願の経験者或いは昭和二七年までの出願の公報を見た者は、「問題点を解決する手段」としてクレームをそのまま記載するものが多く、あるいは“何か書いておけば良い”との考え方で、権利解釈が狭くならないように「一行」で済ましているものもあるのが実情であった。更に「従来技術」については何等先行技術を調査せずに(実際には大企業を除いて、特に個人の出願では不可能かも知れない)「本件発明・考案をもって始めとする」などと記載し、再び有名無実化する傾向が著しかった。特許庁としても訓示的・要望的規定であるので、記載不備として指摘してはいないのが現状である。

更に出願人が明細書において「特徴」と記載していることは、当然乍ら出願人の「主観的」なものであり、特許庁で審査の経過において、公知例など新規性・進歩性の判断をするとき、出願人がその明細書・図面において当り前のアイデアと考えていたものが、「客観的」には当該発明・考案の「特徴」であることを発見されることが多々あり、そのような場合には当然クレームなどを訂正することが可能であって、出願人(発明者・考案者)を保護する措置が講じられている.即ち、「特徴」とは出願人の主観的なものであり、これを直ちに発明・考案の必須要件とすることは不当である。(甲第一三号証乃至同第一八号証の明細書記載に於ける「特徴」の使い方に注目すれば明白である。)

以上の様な次第であるので、発明の特徴をクレームそのまま記載することでは本来の目的から離れたものであり、従ってそのような出願明細書に対しては原判決は「頂門の一針」の価値が或いは有るかも知れないが、之を以って必須の考案構成要件と認定することは、学説・判例もなく、更に特許庁の審査基準にも存在していない全く根拠の無い事柄である。

以上のとおりであるので、「特徴」というところの文言は出願人が気軽にかつクレームの解釈には関係のないという慣例にしたがっているものであるから、今回の東京地方裁判所、東京高等裁判所のように必須の構成要件と認定するには、相当の理由を必要とするもので、その理由を欠如する判決は重大な違法性がある。

四、 クレームの解釈において、単に図面・文言の相違のみで判断することは、裁判所は単に文字・図面の相違の選別機関となる。

クレームの解釈において最も重要なことは甲第五号証に学説の一例を紹介したように公知例の存否の検討である。

そもそも発明・考案は技術思想であって、抽象的・無形的な観念、即ち「質的」なものである。

この点大正一〇年法における実用新案においてすら、それが「型」について登録しているが、権利範囲の解釈に於いては「考案」として質的に決定していたのである。例えば「転がらない断面六角形の型」としてクレームしても、その権利範囲は、転がらない多角形という効果の均等に注目した質的な解釈により、断面四角・三角にも及ぶといった考案を技術思想として解釈していた歴史的背景を無視すべきでは無い。

(ここに意匠権との違いがある。)質的のものは本来的には、文章・図面では表現不可能なものである。

従って、クレームに、たとえ実施例的に表現してあっても、これを技術思想として捉える為には包摂的手法、すなわち公知例と対比検討して発明・考案の有効性を検討すべきことが要請される.

ところで、本件考案の長尺半田材供給装置については公知例がなく、本件考案がパイオニアのものである.

したがって、長尺半田材を送るロールの位置が槽の上か、床の上かの相違は単なる設計上、任意に選択すべき事項であって、甲第五号証からみても当然発明・考案同一として処理されるべき事項である.

しかるに今回の東京地方裁判所、東京高等裁判所は、この点に全く考慮しておらず、単に「クレーム」と「特徴」の記載文言のみにとらおれている.ここに本件考案の技術内容についての事実誤認の違法性が存在する。

五、 裁判所の侵害訴訟の問題点

最近侵害訴訟の多発化にともない、裁判所においては単純な設計変更の相違であれば、クレームを狭く解釈して侵害でないとする傾向がある。

たとえば、全国の地方裁判所で年間約三〇〇件の侵害訴訟のうち権利者が勝つのは約二〇件にすぎないといわれている.

これは、日本人の発明・考案は模倣が多く、したがって権利解釈は狭くすべきであるという心理的作用が働いているように見える。

しかしながら、今日の日本産業、経済発展の大きな要因の一つは多くの同種企業の過当競争の下の努力によるものであり、それが発明・考案の数の過大ともなっている。

特許庁の年報によると世界全体の一年間の発明・考案の数は一〇〇万件であるが、その年数の約五〇万件は日本出願である。

たしかに、日本のものは小発明、小考案であるかも知れないが、この発明・考案の数の多いことは、即ち日本の活力となっている。

しかも、日本の産業は民需先導形であり、国民生活を豊かにする方向に努力の目標があるので、小発明ながらそれなりに役に立っている。

たとえば、欧米ではCCD(固体撮像素子)を、ロケット、ミサイルの命中率向上に使用しているが、日本ではバカチョンカメラ、ビデオカメラなど多くの民需用に使用している.

また、ファジイ理論は欧米では人工知能コンピュータに使用されているが、日本では家庭用の電気洗濯機、真空掃除機に使用している。

今は世界に巨大企業として名を轟かせている米国のGE社(売上高七兆円、従業員三〇万人)は、その一〇〇年前はエジソンの電球の小発明でスタートしたものであり、日本でも松下電器は六五年前に松下幸之助の電球二又ソケットでスタートしたものであり、ブリジストンは七〇年前の石橋正二郎の地下足袋の小発明でスタートしたものである。

これらの事例は何れも先発明の単なる模倣に過ぎないと言っても過言ではない。

ところで、小発明であり、模倣であるということに起因しているのか、最近、昭和五〇年ころからは裁判所、特に東京地方裁判所では権利解釈を狭くしているという定評がある.(参考資料二)

また、地方裁判所の権利解釈が狭いことなどを含めて米国より特許摩擦として話題を呼んでいる.(参考資料三)

それは一九八八年、米国の包括通商法のスペシャル第三〇一条によって、日本の知的所有権の不公正な処理の点に対して、対抗措置を強化しようとすることであって看過することはできない。

以上のとおりで、これを要約すると、

(1) 特許法は、発明奨励制度ではなく、模倣侵害の奨励制度にもなりかねない。

(2) 発明者は自己の発明を守るべく、ますます多くの防衛出願をせざるを得ない。

(3) 米国では先端技術のパイオニア発明は相当の期間、外国(特に日本を対象としている)に対し、特許実施許諾をしないという法案を検討中である。

(4) 裁判所ではかつては行っていた十分な準備手続を省略して、準備書面のみによる簡略審理を行う傾向があり、しかも明細書、クレームの些細な文言、図面の単なる設計変更を発見することによって形式的・機能的選別をしている判決が多い。

第三 結言

本件考案は公知例がなくパイオニア的考案であるにも拘らず、その点を看過するとともに、長年の判例・学説によって定着している権利解釈における必須の構成要件の認定において、「効果」ではなく「特徴」をとらえた点に何等の理由を示しておらず、かつ実用新案法第五条第三項・第四項の「構成」についても、その解釈について誤ったものである.

すなわち、東京高等裁判所の判決は理由不備、審理不尽であるので正に違法のものと思われる。

時局下、特許行政の重大な危機によりそれを救うためにも最高裁判所の正当な御判断を仰ぐ次第である。

以上

(添付書類省略)

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